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股関節の「つまり」はなぜ起きる?|骨の衝突だけではない関節の初動と無意識の防御
執筆: 長澤一輝, D.C.
米国Cleveland Chiropractic College卒業
Doctor of Chiropractic(D.C.)専門職学位取得
臨床歴25年以上
活動拠点: 銀座・虎ノ門エリア、福岡天神
YouTube:
https://www.youtube.com/@Nagasawa_Drofchiropractic
こんにちは、Dr.Kazです。
「股関節を曲げると、前が詰まる感じがする。これは骨と骨がぶつかっているのでしょうか?」
先に答えると、そうとは限りません。
医学的には、大腿骨側と骨盤側が動作中に接触しやすくなる「大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群」という状態があります。しかし、インピンジメントとは衝突や挟み込みが起きている状態を表す言葉であって、「なぜその人に症状が出ているのか」という原因のすべてを説明する言葉ではありません。国際コンセンサスでも、症状、身体所見、画像所見の3つがそろって初めてこの症候群として考える、とされています。
私が2026年8月19日のLIVEで強く話したのは、むしろその手前です。
股関節が最後に「詰まる」と感じる前に、関節が動き始める最初の小さな動きはどうなっているのか。
私はそこを見ています。
「インピンジメント」という言葉だけでは原因は分からない
股関節の骨が実際に接触しやすくなるケースはあります。しかし、「インピンジメント」という名前がついた瞬間に原因がすべて分かったわけではありません。
大腿骨頭から頸部にかけての形状や、骨盤側の寛骨臼の形状によって、股関節を深く曲げたり回したりした時に接触が起きやすくなる場合があります。
これが一般に「大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群」と呼ばれるものです。
ここで重要なのは、「骨の形があること」と「症状があること」を分けることです。
画像上ではインピンジメントに関連する骨形態があっても、まったく症状のない人がいます。2,114の無症状股関節を対象とした系統的レビューでも、このような画像所見が無症状者に一定割合存在することが確認されています。
だから私は、
「画像に形がある」
↓
「これが今のつまりの原因です」
とは単純につなぎません。
股関節をどう動かした時に症状が出るのか。
左右差はあるのか。
筋肉や軟部組織はどうか。
骨盤や腰が代わりに動いていないか。
そして、関節の動き始めはどうか。
そこまで見ます。
私が注目するのは「詰まった場所」より動き始め
2026年8月19日のLIVEでは、私は股関節のつまりについて、筋肉、筋膜周辺、滑液包など複数の要素が関係する可能性を話したうえで、「動きの最後だけではなく、動きの最初が重要」と説明しています。
元LIVE
https://www.youtube.com/watch?v=nvWIzEU3IjM&t=516s
多くの場合、股関節を見る時には、
「ここまで曲がる」
「この角度から詰まる」
という最終的なRange of motion、ROM(関節可動域)が注目されます。
もちろん、それも重要です。
しかし私は、その前を見ます。
股関節を動かし始めた瞬間に、関節が滑らかに動いているのか。
最初のごく小さな動きに左右差がないか。
軽い抵抗や引っかかりがないか。
一般の方にはJoint play(ジョイントプレイ/関節の遊び)と説明すると分かりやすいと思います。
LIVEでも私は、
「最後の方が詰まっているように感じても、その原因部分が初動や関節の遊びにあることがある」
という趣旨で話しています。
ここが、現在私が使っているマイクロモーションにつながります。
「詰まる」と感じる前に身体はすでに守っているかもしれない
私はさらに、その小さな関節運動に対して身体が無意識に起こす防御反応を考えています。
これを私は「マイクロディフェンス」と呼んでいます。
マイクロディフェンスは医学上の診断名ではありません。私が臨床経験を整理するために使っている仮説的な概念です。
この考え方は、8月19日の股関節LIVEで突然出てきたものではありません。
その11日前、2026年8月8日のLIVEでは、私はすでに関節の遊びに左右差や引っかかりがある時、本人がはっきり意識しなくても身体が小さく筋肉を固めたり、動きを制限したりして対応しているのではないか、という話をしています。
8月8日LIVE・関節の遊びと無意識の反応
https://www.youtube.com/watch?v=6R-lMIUL8qw&t=986s
無意識下の動作制限について
https://www.youtube.com/watch?v=6R-lMIUL8qw&t=1049s
そして8月19日には、股関節について「動きの最初」「関節の遊び」を具体的に話しています。
私の中では、この二つはつながっています。
関節のごく小さな動きに違いがある。
↓
身体がその情報を受け取る。
↓
本人が「痛い」と認識する前に、筋肉の緊張や動作の制限によって守ろうとする。
↓
その状態が続いたり負荷が増えたりすると、「硬い」「開きにくい」「詰まる」と本人が認識する。
この無意識下の小さな防御を、私はマイクロディフェンスとして考えています。
この考え方に解剖学的な土台はあるのか
「身体はそんな小さな関節の変化を本当に感じているのか?」
ここは一般的事実と私の仮説を分ける必要があります。
股関節周囲には感覚神経が存在します。人の股関節を解剖学的に調べた研究では、関節包、関節唇、円靱帯などから感覚神経線維やmechanoreceptor(機械受容器)が確認されています。
参考資料
Characterisation and classification of the neural anatomy in the human hip joint
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22344482/
ただし、「この受容器が股関節のつまりを検知してマイクロディフェンスを起こしている」と直接証明されたわけではありません。
股関節包の固有感覚機能については、研究上まだ不明確な部分も残っています。
一方、関節から入る感覚情報の変化によって筋活動が変化する現象自体は、arthrogenic muscle inhibition、AMI(関節原性筋抑制)として研究されています。特に膝関節の外傷や炎症などでは、関節からの求心性感覚入力の変化が筋活動や運動制御へ影響することが知られています。
ただしAMIの研究を、そのまま健康な股関節のマイクロディフェンスへ当てはめることはできません。
ここから先は私の臨床仮説です。
私は、もっと小さな段階でも身体には何らかの防御的な調整が存在するのではないか、と考えています。
マイクロモーションでは何を見るのか
マイクロモーションでは、股関節を大きくガシガシ動かすことを目的にしていません。
私が見たいのは、関節が本格的に動く前のごく小さなJoint playです。
右と左で違わないか。
一方向だけ抵抗がないか。
最初の小さな動きが滑らかか。
その入力を変えた後に、股関節全体の動きがどう変わるか。
2026年8月19日のLIVEでは実際に、股関節の開きに左右差があった方について、以前股関節へアプローチした後、約1か月後に確認したところ、その左右差が確認されなかったという一例も話しています。
これは一例です。
マイクロモーションをすれば股関節のつまりが必ず変わる、という意味ではありません。
重要なのはReassessment(再評価)です。
何をしたかではなく、その後に同じ動作がどうなったかを見る。
私はそこを大事にしています。
筋肉や軟部組織も無視しない
もちろん、股関節のつまりを全部マイクロディフェンスで説明するつもりもありません。
8月19日のLIVEでも私は、筋肉の強さの左右差、筋膜周辺の動きにくさ、滑液包などについて話しています。
つまり、
骨だけではない。
関節だけでもない。
筋肉だけでもない。
筋膜だけでもない。
私はここを分けて見ます。
軟部組織側に動きにくさがあると考える場合には、メディセルを使います。
メディセルは皮膚を吸引しながら機器を動かし、皮膚、皮下組織、筋膜周辺などの滑走性や左右差を確認するために使用します。
そして関節側は、カイロプラクティックや必要に応じてマイクロモーションで見る。
当院の最大の特徴は、この関節側と軟部組織側を一つに決めず、両方から確認できることです。
Dr.Kazは股関節のつまりをどう確認するか
まずHistory(ヒストリー/問診)で、「詰まる」という言葉の中身を整理します。
痛いのか。
引っかかるだけなのか。
深く曲げた時か。
内側へ回した時か。
歩いた時か。
スポーツ中か。
いつからなのか。
画像検査を受けたことがあるのか。
次にROM、左右差、股関節の動き方、骨盤や腰のCompensation pattern(代償動作のパターン)を見ます。
必要に応じてMotion palpation(モーション・パルペーション/関節を動かしながら行う触診)から、股関節、骨盤、腰を含む関節運動を確認します。
サブラクセーション(Subluxation/骨格のズレ)が関係していると考えれば、必要な方向と力を選んだAdjustment(アジャストメント)を行います。
軟部組織側ならメディセル。
関節の初動をさらに細かく確認したい場合にはマイクロモーション。
そして、最初と同じ股関節の動きをもう一度確認します。
骨の衝突が疑われる時は医療機関の役割がある
私は「つまりは全部マイクロディフェンス」と言っているわけではありません。
鼠径部の痛みが長く続く。
股関節を深く曲げたり回したりすると毎回強く痛む。
可動域制限が強い。
クリック、ロッキング、引っかかりなどが続く。
こうした場合には、整形外科などで身体所見と画像を含めて評価してもらう意味があります。
大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群についての国際コンセンサスでも、症状、臨床所見、画像所見を組み合わせることが必要とされています。画像上のCam型・Pincer型といった骨形態だけでは診断しません。
画像には画像の役割があります。
私が手で確認する関節運動には、別の役割があります。
どちらか一方だけで身体を説明しようとしないことが重要です。
FAQ
股関節が詰まるなら、骨同士がぶつかっているのですか?
必ずしもそうではありません。本当に骨性の接触が起きる状態はありますが、筋肉、軟部組織、関節の動き、骨盤や腰の代償なども確認する必要があります。
「インピンジメント」と言われたら原因が分かったということですか?
そこまで単純ではありません。インピンジメントは衝突・挟み込みという現象を表す言葉です。症状がなければ、画像上に関連する骨形態があっても大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群とは扱いません。
マイクロディフェンスは医学的に証明されたものですか?
いいえ。マイクロディフェンスは、私が関節の微細な動きと無意識下の防御反応を整理するために使っている臨床仮説です。医学上の診断名ではありません。
マイクロモーションでは何をするのですか?
関節を大きく動かすのではなく、Joint playと呼ばれるごく小さな関節運動を確認しながら、入力前後の身体の反応を比較します。
ストレッチをすれば股関節のつまりは取れますか?
筋肉が関係していれば変化する場合はあります。しかし、骨性の問題や関節の初動、軟部組織など原因が別にある可能性もあるため、痛みを我慢して強く押し込むストレッチは勧めません。
この記事の結論
股関節の「つまり」は、原因名ではありません。
本当に骨同士が接触しやすくなっている場合もあります。
しかし私は、それだけで終わらせません。
最終的に詰まった場所を見る。
その前の動き方を見る。
さらにその前のJoint playを見る。
そして、その微細な変化に身体が無意識に反応していないかを考える。
この無意識下の防御を、私は「マイクロディフェンス」と整理しています。
股関節が詰まるから、ストレッチ。
股関節が詰まるから、骨格。
画像に形があるから、それが原因。
私はそのように一方向へ決めません。
骨、関節の初動、筋肉、軟部組織、骨盤や腰の代償。
それぞれを確認し、必要な方法を選び、同じ動きをもう一度確認する。
そこまでが私の臨床です。
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この記事の一次情報
ライブ開催日
2026年8月19日
動画タイトル
股関節のつまり 骨のぶつかりなの?
元動画
https://www.youtube.com/watch?v=nvWIzEU3IjM
筋肉・筋膜周辺・滑液包と股関節のつまりについて
https://www.youtube.com/watch?v=nvWIzEU3IjM&t=452s
関節の「動き始め」とマイクロモーションについて
https://www.youtube.com/watch?v=nvWIzEU3IjM&t=516s
関節の初動・Joint playが重要という説明
https://www.youtube.com/watch?v=nvWIzEU3IjM&t=581s
股関節を再評価した臨床上の一例
https://www.youtube.com/watch?v=nvWIzEU3IjM&t=650s
